鋏正宗吉岡刃物製作所

職人インタビューCRAFTSMAN INTERVIEW

吉岡刃物製作所の代表でもあり
技術継承者でもある吉岡崇さんに
職人を代表して
お話をお伺いしてみました。

  • すごいカッコいい仕事だと思うのですが、
    鋏職人という仕事について
    どのように思われますか?

    「汚れるし、暑いし寒いし重いしみたいな仕事やけど、庭職人さんの仕事を支える鋏(はさみ)を作れることには誇りも自信もあるから、それをカッコいい仕事やって思ってもらえるのは嬉しいな」 他の鍛冶屋や刃物職人の中には、しんどい仕事やからやめといた方がいいと言う方も多くいらっしゃいますが、吉岡さんの言葉からは、頑固な職人という印象ではなく、謙虚で純粋に使い手が使いやすい鋏を作りたいという思いや鋏づくりという仕事に対する魅力がたくさん伝わってきます。

  • 吉岡刃物製作所の製品づくり

    吉岡刃物製作所さんがある兵庫県小野市は江戸時代から続く刃物の産地であり、その技術の高さは現代まで大切に伝承されてきた。そんな中「ラシャ切鋏(裁ち鋏/洋裁鋏)」を作り始めたのが吉岡刃物さんの始まりだそうです。現在は「刈込鋏」や「植木鋏」など、主に庭師さんが使う園芸用鋏の製造を主力としながら、原点である「洋裁鋏」も作る、そんな刃物の総合メーカーである。
    吉岡刃物さんのブランドである「鋏正宗」は、プロの職人が使用しても満足いただけるよう「よく切れて、長く使え、持った時のバランスがよい」という所にこだわりを持って作られているそうです。

    鋏正宗
  • 年間1,000丁を超える
    研ぎ直しメンテナンスを行う理由

    日本中から送られてくる年間1,000丁以上の鋏を砥ぎ直しメンテナンスをされていると伺い驚きました。手間ではないのですか?と質問すると「研ぎ直しやメンテナンスを受けることは鋏職人にとって大切なことやねんで」と返ってきました。「研ぎ直しさせていただくことで、植木職人さんたちのクセや特徴がわかる、それを知って研究して初めて今より進化した製品を作るための課題がわかる」そんな風に話す吉岡刃物さんの砥ぎ直しメンテナンスの工程を聞いていると、決して安いから依頼が来るのではなく、確かな技術に対する高い信頼が根底にあることがよくわかる。
    研ぎ直しの際には一度分解し、刃のすべてに番手を変えながら何度も研ぎを行い、刃が擦れ合う部分を丁寧に調整する。

    必要に応じて接合ネジや柄の交換も行うという。そして例えば柄を交換する場合、左右両方の柄を交換するのかと思えば、そうではなく、植木屋さんの癖や使用感を極力活かすために、どうしても必要な箇所だけを交換するため、時には片方だけの交換に留めることも多いという。
    「鋏は必ずしも新品がベストな状態ではなく、職人が使ってその癖や特徴に合わせて変化していく、その状態で初めて完成することもある」
    「それに研ぎ直してでもまだまだ使いたいと思ってもらえて、しかも研ぎの技術を信頼してくれてるのは嬉しいことやしね。」

    お話しを伺いながら、良い鋏とはどのようなモノだろうと考えていると、「良い鋏とは、素材や作り方で決まるわけではなく、使う側の職人さんに使いたいと思ってもらえる鋏であるというコトが大前提やと僕は思いますよ」と吉岡さんは話されました。その大前提をブレることなく代々受け継いでいる吉岡刃物さんのマインドに関心し、なぜ植木や造園のプロ達から「兵庫県の小野市に絶大な信頼を得る職人がいる」と言われるのかがよくわかったような気がしました。

  • 鋏づくりの面白さは、
    思うようにいかない所。

    「同じ種類の鋏を見ると同じように見えるやろ?でも同じ鋏を作ることは簡単ではないし、何年やっても思ったようにならへん」続けて、「家が鋏屋じゃなかったら鋏職人にはなってないやろなー」と話す吉岡さんですが、「今の時代やから機械を使って作る工程も増えた、機械の精度も高い、それでもまったく同じものができることはなくて、微妙な誤差や違和感が生まれる。各工程の仕上げにその誤差や違和感を感じ取って、目に見えないような細かな修正をして、限りなく同じものに仕上げていくっていうのが職人の技と経験やけど、その説明できないような難しさやこだわりこそが鋏づくりの面白さでもある」そんな風に教えてくれる吉岡さんは、とても楽しそうで、もっとよい鋏を作りたいという鋏職人しか知らない面白さがまだまだ奥深くあるんだなという事が感じ取れ、自分も鋏職人になれるんだろうか?と一瞬頭をよぎるような魅力に引き込まれます。

  • 最後に「産地」や「地場産業」
    というコトに関して
    教えてください。

    鋏に限らず、刃物や木工など、どの業界でも「産地」であるという事はとても大切だと教えていただきました。鋏を作るためには技術だけではなく、鋼(はがね)材料やそれらを加工するための機械や場所、そしてそれらを相談できる仲間が近くにいることが良い製品づくりには大切だと話す吉岡さん。
    「材料である鋼の種類だけでも青紙スーパー/青紙/白紙など沢山の種類があり、製品ごとにその特徴を使い分ける。その材料や機械を手に入れることができるのも産地だからこそということもある」「紙に書いたり、言葉で伝えることができる技術もあるけど、経験や感覚でしか習得できない技術も沢山ある。鍛冶屋の技術は一度途絶えると簡単には元には戻せない。だからこそ会社も材料も機械も産地も、全部継承していかないと大切な職人や技術を守られへんから大変やわ」とのお話しを伺い、産地であることの意味を改めて感じました。
    地場産業と言うと古い物のような印象があるが、そこに希少価値の高い技術があり、オンリーワンがあるとしたら、それはある意味、最も貴重で価値の高い最先端と言い変えることができるのかも知れない。

    • 創業74年 Since,1946 / 昭和21年
    • (有)吉岡刃物製作所
    • 三代目吉岡 崇
    • Takashi Yoshioka
    • インタビュアー|今村明浩